スカイファイターエフ
『鷹戦士F』立ち読み
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第6章 反抗
A resistance



 アトラス山脈を越え、地中海を渡り、Fはイヌワシとの戦いに明け暮れる。ヨーロッパはスペイン、モンフラーゲ地方。
 北半球で最も広範囲に生息するイヌワシ五亜種はいずれも強力で、ここはSpanish Golden Eagle(学名Aquila chrysaetos homeryi)というスペイン最大のイヌワシが住んでいる。
 鷲達は自分の縄張りに流れ者が入ってくると、まず威嚇のV字飛行を始める。両翼をVの字に上げ、首を高く持ち上げて相手を脅すのだ。
 それでも相手が逃げて行かない場合は攻撃に出る。
 そして、この縄張りの王の強いイヌワシがやってきた。大きなメスワシだ。襲いかかるマントの風圧をFは垂直上昇で交わした。その自由自在の飛行能力にまず相手は驚愕した。
 Fは掴みかかり、その爪が相手の初列風切(最も外側の、一番長い羽で左右に十枚生えている)をむしり取った。相手はFの握力に恐れをなして逃げていく。
 Fは何事もなかったように、西空に消えていった。



 その夜、Fはあばら家の一軒家の屋根に止まる。
 当たりも薄暗くなりかけた頃、そこへ昔より住んでいたコウノトリが飛んで来る。Fの1.5倍はあろうかという体、不気味な影は、そのまま彼より少し離れたところに止まる。
「おい、じいさん。オウギワシはどこにいるか知ってるか」
「オウギワシじゃと……」
 じいさんは彼のほうを振り向くや
「ひえーっ、助けてくれーっ!」
 と慌てて飛び出し、横の煙突にぶつかって真っ逆様に地面に落ちる。



「安心しろ、食ったりはせん」
 Fは屋根を舞い降り、彼の横に止まって言う。
「おう、そいつは本当じゃろうのう。本当にわしを食わんじゃろのう」
こうして再び二羽は屋根の上に止まる。
「何と言ったかのう、オウギワシじゃと、ばかこくでねえ!
 オウギワシがこんぎゃなとこにおっか! オウギワシというのはのう、南アメリカのアマゾン側流域を奥へ、奥へと進んでいったところにおるんじゃ。あいつは鷲鷹類の中で最強じゃ」
「なにい……」
 Fの長い冠が逆立ち、その目が鋭く光る。
「わ、儂が言うたんでねえ、百科事典で読んだんじゃ」         じいさんは慌てて言う。
「じいさん。南アメリカへはどう行けばいい」
「お前、変なことを聞く奴じゃのう。よく言う変わり者じゃな。いいじゃろう。ここで知り合ったもなんかの縁じゃ。こっちゃ来い」
 コウノトリの爺さんは、下へ降りるとあばら家の中へ入り、部屋の古いランプに火をつける。
「器用な爺だな。火を自在に操る鳥なんざ初めて見たぜ」
「わしゃ何年生きとると思うか。今年で110才じゃ。これだけ生きると知らんでいいものまで知ってしまうものなんじゃ」
 彼は壊れかけた本棚から一冊の分厚い本を引きずり出し、くちばしで、所々破れかけたページをめくっていく。
「これだがや!お前見てみそ!」
 じいさんがはぐった本は鳥類図鑑で、そのページ一杯にのっていたのは、そのオウギワシであった。青い顔立ちに明るい褐色の目、巨大な体、それはまさに、鳥の王者に相応しい立派な、そして不気味な雄姿であった。
「これがオウギワシか」
 Fは本を見るのは初めてだったが、その輪郭をつかみ取ってオウギワシの姿を想像した。
「そうじゃ。お前の倍はあろうのう。ナマケモノを片足でかっさらい、ライオンですら手を出せないヤマアラシをも餌にする。お前んごたコンマか鳥が戦ってん勝てるかい、こいば見れ」
 コウノトリのじいさんは次に世界地図を出す。これまた古く、今にも破れそうなページを、彼はくちばしで器用にめくる。
「これが世界じゃ。わし等は今ここにおるんじゃ」
 コウノトリのじいさんはその世界地図のスペインをつつく。
「そんなちいせえ所に居れる訳ねえじゃねえか」
「あーもう、こいやから知能のひくか奴はすかんたい」
 彼は崩れるようにふてねする。
「もうしらん! 儂は疲れたけん寝る、あ、ちょっと、本当に儂を食わんじゃろのう」
「あんたを食ったら腹壊しそうだ」
 
 Fは、爺さんが寝たあともその本をめくっていた。そのオウギワシの横のページに、同じ大きさで半分に破れた雄大な鳥がいた。允の言葉を思い出す。サルクイワシ…。
「おい、爺さん、こいつがサルクイワシか」
 年寄りは夜も早い。コウノトリの爺さんは、もういびきをかいて眠っていた。
 その写真の大きさから、このオウギワシと同等の力を持つものではなかろうか、そんなカンがFはした。ロウソクが灯る部屋で、Fはその百科事典と世界地図を夜中ずっと見ていた。



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