スカイファイターエフ
『鷹戦士F』立ち読み
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第5章 生きる戦い
A battle for survival



 ハーレムの女達も、誰もがわが目を疑った。ガインはあの時より一回り大きくなっている。筋肉のつき方も、まるで違う。ガインの姿が、死刑執行人のようにどんどん近付いて、その距離が十メートルほどになったところでその足が止まった。
「どうやって生きてきたんだ…」
「ライオンを食って生きてきた。足が遅く機敏に動けない。だから俺はオスライオンに目を付けた。オスライオンなら俺でも狩ることが出来ると気がついたのよ。お前のグループの二頭も、俺が食った」
 そう、あのときガインは死力を尽くして戦いハイエナを食らい、その戦いが、これから先を生き抜くヒントになったのである。
「死んで貰うぜ、ゲルム」
「返り討ちにしてやるぜ!」
 二対一の戦いが始まった。ガインは飛びかかるやいきなりゲルムに骨も砕けるようなパンチをくらわせる。ゲルムはアゴが砕け、脳震盪を起こして倒れた、今がチャンスだ。しかし、すぐに背後からマッドが背中に飛びかかった。
 そのとき、あのライザがその背中に飛びついた。ライザは振りほどかれ、何とそのライザに襲いかかったのはコンガだった。
「ゲルムは新しいハーレムの改革者だ! あんたにはそれが分からないのかい!」
 ライザはコンガを殴り飛ばした。
「強い男は独りで戦うものさ、あんなハイエナもどきのやりかたでライオンと言えるのかい! ガインはライオンだよ!」
 背中に飛び付いたマッドを降り落とし、ガインはその首に噛みつき、大きく振り回した。ゲルムがやっと気がつき、背後からガインに襲いかかる。

 Fは崖の石の間に生えた草を食う羊を見つける。
(このへんは餌が少ない。あいつを引きずり落とすしかない!)
 獲物が少ない山岳地帯。
 無謀な狩りを承知でFは急降下に転じる。羊が気が付いたときにはすでに遅く、猛スピードでの全体重をかけてのアタックに羊はぐらつき、岩をすべり落ちそうになるが、何とか持ちこたえる。
 Fは無理と見るや羊を離し急上昇すると、再び急降下する。ワシタカ類は自分の体重の2.5倍以上のものをもち上げられる。
 しかしこの羊は50kgはありそうな巨体、到底持ち上げられるものではない。何度もアタックする。そして再びFのかぎ爪が羊の首をとらえ谷底に引きずり込む。
 ついに羊は疲れて岩場から滑り落ちる。そのとき暴れていた羊の角がFの胸をザクリときる。しかもFの爪がなかなか抜けない。このままだと羊と一緒に谷底に落ちてしまう。
(しまった!)
 谷底を落ちる瞬間突き出た岩に羊はぶち当たり、その衝撃で爪が抜ける。
(今だ!)
 Fは瞬時に羽ばたき、岩にぶつかる寸前で急浮上する。
(助かったぜ)
 それは、彼が初めて経験した、生きるか死ぬかの狩りであった。
 しかしその時空にはすでに数羽のハゲワシが、輪を描いていた。次々と集まるハゲワシ達。Fは空をにらみ、あの時のハゲワシ達を撃退すべく舞い上がる。そのとき、
「お前等手を出すな!」
 それはあのアトラスだった。アトラスは大空に円を描きながら他のハゲワシ達に言い放つ。
「いいか、俺があの鷹と戦う!お前達は黙って見ていろ」



 アトラスはFをにらみ付け
「この一帯は俺達の山だ。ここで狩りをすることは許さぬ。あの獲物を食いたいならば俺と勝負しろ。この前の戦いで15羽のハゲワシが死んだ。無駄な戦いだ。そいつらには雛もいる。また同じような事をしてはならん。俺とおまえの勝負で決めようではないか。おまえが勝てばこの山での狩りを許す。俺が勝った場合は直ちに出て行け。更にもう一つ」
 アトラスがニヤリと笑って
「お前はカンムリクマタカ、しかも見るところ修行を積んだ鷹戦士に見えるが」
「その通りだ」
「俺の手下十羽を援軍に加える。これで受けて立つか?」
「いいだろう」



 アトラスなら倒してくれる。
 彼は今までもこのコロニーのリーダーとして、ヤギやヒツジを谷底に叩き落とし、群れを飢えから救い、そしてコシジロイヌワシをもこの縄張りから撃退した。ハゲワシたちは彼に全てを委ねた。
 巨鳥アトラスはいきなりFに襲いかかる。Fは交わすと急上昇、急降下でその背中を蹴る。アトラスはぐらつくがそこを仲間が囮として進路を遮って向かってきた。Fは素早く浮上して蹴り上げた。アトラスはそのパワーに体が沈む。と同時に横から捨て身のハゲワシが体当たりを食らわす。Fはその背中を鷲掴みにした。
 ギャアー
 鳴き声が響いたその時、気配を消していたアトラスが急降下してFの翼を叩いた。グキリと鈍い音と激痛が走る。瞬時にあのクラウスの顔が浮かんだ。
 Fはバランスを崩して落ちていく。そこを追撃るようにアトラスはまた体当たりし、二羽は岩場に叩きつけられ、茂みに落ちた。
 Fは脳震盪をおこすが頭を振って意識を取り戻す。その時、上から巨大なくちばしがその背中を突き刺す。地上戦では体の大きいアトラスが圧倒的に有利だ。
 激痛がFの羽を走る。
 飛べない。右の翼が動かない。
 両足で立つためかぎ爪は使えない。しかも回りが林や茂みだ。アトラスのくちばしがFの体に容赦なく突き刺さる。Fの小さいクチバシは攻撃するにも相手の深い羽毛に遮られる。




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