スカイファイターエフ
『鷹戦士F』立ち読み
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第5章 生きる戦い
A battle for survival



 獲物を奪われるということを初めて経験したFは、怒りで眠れず、金色の目は夜通し光っていた。
(アトラス、気配を消して近づいてきた。あの野郎、鷲戦士か?)
 飢えは慣れている、それでも脚は震え止まり木から落ちそうになる。崖の下では、カラカル(ヤマネコ)のうるさい鳴き声が、不気味に響く。ひとたび落ちれば、カラカルのいいエサだ。何せ彼らは夜、見えない。
 昼間はエサとして狙う獲物に、夜は自分が狙われる。
 今はただ、飢えに耐えれながら、夜が明けるのを待つしかない。
 これもまた修行なのだ。

 そして翌朝、怒りと飢えでうたた寝から目が覚めたFは、震える脚で大空をにらみ、羽ばたく。
 意外なほどに軽く身体は舞い上がった。まだまだあふれる力に、勇気がわいてきた。また、獲物は探せばいい。アトラス山脈にFは吸い込まれていった。
 そして陽が頭上高く上り詰めた頃、岩場にハイラックスが数匹で木の実を食っている。
(いたぜ……)
 Fは急降下して一気に襲いかかると、散らばって逃げるハイラックスのなかで一番大きなものを仕留める。
 久しぶりの獲物を、Fはただ夢中で食べた。今度はあのハゲワシたちも来ない。そして腹を満たしたFは、再び大空に舞い上がる。
 あの大きなアトラス山脈を越えなければ、ユーラシア大陸には行けないのだ。

 やがて夕暮れ、Fは崖の上の小さなくぼみに止まって一夜を過ごす。そのとき、あの地上を歩くクラウスを見た。クラウスはFと目を合わせると、手負い獣のようなぎらついた目でFをにらんだ。
「ヒゲワシの翼にやられた。おまえも気をつけるんだな」
「アトラスか。おまえ、羽をやられたのか」
 二羽の視線が言葉を交わす。
「そうだ、ボッキリなあ」
 クラウスの口調の奥に隠れた無念が聞こえた。目は、一生飛べないことがわかっている目だった。失うこともある、それもまた鷲戦士の宿命なのだ。
「フッ、地上でも戦えるさ。飛べなくてもおれは、鷲戦士だぜ」
 その言葉はFの胸を打った。
 そして二羽は別れた。


 その同じ頃、ハゲワシ達の群れもコロニーを作り眠りにつくところだった。雛が一斉にふ化するこの季節になると彼らは100羽余りもの大群になる。
 一番獲物が欲しい時期なのだ。Fとの戦いに傷ついたハゲワシたちはうめき声をあげながら苦しんでいた。
「十五羽のハゲワシが死にました。あいつは凄まじい爪豪でやす」
「バカヤロウ、死んじまえば何もかも終わりじゃねえか。バカヤロウども、ウオー!」
 アトラスは号泣し仲間の死を嘆く。彼がボスと言われるもう一つの理由が、この号泣。子分達は彼の荒っぽくも温情あるその行動に魅力を感じていたのだ。
「あいつはただのタカじゃあねえな。鷲戦士、それも鷹豪(ベストホーク)の力を持っている。あいつを見つけたら俺に真っ先に知らせろ。考えがある」
 アトラスは大きな風を起こして羽ばたく。強力な敵を前に一致団結するハゲワシのコロニー。ダークはまたしてもアトラスの陰に隠れてしまった。
 とにかく逆らいたい。いきり立つダークがその統率を乱そうと、雌のハゲワシのくわえていた肉を奪おうと飛びかかったとき
「待て、ダーク!」
 普段めったに彼を制止しないアトラスが体当たりして彼を飛ばし怒鳴った。
「そいつはヒナに肉を与えるのだ。お前はもうさっき食べた。譲ってやれ!」
「なんだと…俺に指図する気か!」
 怒りにはらわたが煮えくりかえったダークをアトラスは睨み据える。アトラスよりも更に大きく力もあるダークの威嚇は凄みがある。赤い顔を更に紅潮させ、羽を大きく開き決闘モードだ。アトラスの味方も彼の横について威嚇する。同じぐらい大きなハゲワシたちが獲物の肉山からゾロゾロとおりてきた。こうなると複数では勝てない。
「ケッ、お前らは群れないと俺に向かってくることも出来ねえ、このクズども」
 ダークは怒りにまかせ大きな風を巻き起こして空へ飛んでいった。



 一方のサバンナの夜。
 ガゼルやシマウマたちが神経をとがらせ周囲の気配を探る中、遠くの草原で怪物がライオンに襲いかかる。大地を転がり激しく殴り合い、闇討ちを食らったライオンは激しい乱闘の末、殺された。
 怪物はライオンをむさぼり食うと、草原に消えた。
 そして、次の日も、サバンナの片隅であの怪物によってライオンが殺された。謎の殺し屋が食い尽くした後を、ハイエナの群れが掃除に来る。

 サバンナの中央にそのテリトリーを持つゲルムのハーレム。ゲルムはライザに交尾を迫るが逃げられる。
「ケッ、死んだ男が良いのか。ガインは脳なしだ。俺達のように組んでハーレムを乗っ取ればいいものを。俺はこのサバンナの革命者だ!」
 ゲルムはライザを追いかけるが、雌ライオンを到底捕まえられるわけがない。ゲルムは舌打ちするが、すぐに他のメスライオンがすり寄ってくる。
「あんな堅物はやめておきなよ。私は強い男が好きさ。あんたは頭がいい、これからはライオンもハイエナのように、ときには組んで生きていかなければならないのさ。女たちはすぐれた男の子供が産みたいんだ」
 それはNO.2の女、コンガだ。
「分かってるじゃねえか、コンガ」
 早速、ゲルムはその上に重なったところへ相棒のマッドが来る。
「ゲルム、バギーが殺されたぞ!森の中で死んでいた、ビリーも、もう何日も見ていない。あいつもひょっとしたら…」
「バカいえ、ちっと遊びほうけているだけだ。そのうち腹をすかして帰ってくるさ」
「ハッ、だといいけどよお、最近のライオン殺しの怪物は誰なんだろうな。気味が悪いぜ。俺達と同じような殺し屋グループが俺達に狙いをつけたんだろうぜ。思い当たる奴がいるか。ゲルム」
「分からねえ。いるとすれば……」
「誰だ」
 そのとき、ゲルムは遥か草原のかなたから、ゆっくり歩いてくる獣の影にわが目を疑い、恐怖にその目を見開いた。地獄からはい上がってきた男。
「ガイン…!」



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