スカイファイターエフ
『鷹戦士F』立ち読み
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第1章 白い悪魔
White DEVIL

 地上、自分の体が隠れるほど大きな葉っぱや草、しかしそこはあまりにも生き生きとしていた。
 ヒナは未知の体験に胸が高鳴った。

(悲しんでばかりはいられない。明日を生きねば)

 ヒナは今までになかったほど、その足を動かし回りを駆け巡った。ジャングルは思ったよりもはるかに静かだ。

 獣一匹通りはしない。

 半日ほどただ夢中で歩き回って野ネズミを見つけた。捕まえようと走ったが、すぐに逃げられる。
 脚力が全然違う。
 あっという間に引き離された。彼はこの時初めて回りの獲物が自分よりも強いことを知る。

(あんなネズミを捕まえられないなんて。おれは弱いんだ)

 ヒナは、黒く柔らかな腐葉土の上を張ってきた虫に目をつけた。

(こいつなら!)
 素早くくちばしを打ち込んだ。
 虫は青臭い汁を出し、ヒナは吐き気がして離れた。異常な味だ。身体がその味を拒絶する、やはり自分は肉しか食べられない。ヒナは近くの茂みを歩く子連れのネズミを見ながら気がつく。
 
(大人を取ろうとしても無理なのは俺が子供だからだ、なら子供を狙えばいいんだ)
 ヒナは走った。そして飛びかかる。
 しかしまたしても逃げられた。


 そして夜がきた。
 ヒナは初めて獣を見た。
 アフリカゴールデンキャット、自分の百倍以上の猛獣だ。
 月明かりに映るゴールデンキャットの金色の目は、ダイカーに至近距離まで近づくといきなり草から飛び出した。
 ダイカーは首をかまれていてそのまま倒れ、空をかくように足を回転させたが、すぐに息絶えた。
 その狩りを見ていたヒナはハッとあることに気づく。


 そしてその翌日。太陽の木漏れ日もちらほらと地上に届くジャングルの草やぶの中、ヒナはじっと茂みに隠れたまま待ち続ける。そして足音を立てず、ゆっくりと標的の子ネズミに狙いを定め近付く。

(一瞬の勝負だ、この狩りを成功させなければ、すべて終わる)

 ヒナの筋肉はこの時、最大限の力を一瞬のうちに発揮してネズミを捕まえた。本能のまま爪をネズミの首に突き刺す。無我夢中で相手を死ぬまで突き、握りしめる。子ネズミはすでに死んでいて、やっとヒナはそのことに気づく。ヒナは一週間ぶりの獲物を口にした。
 
 しかし、成長期の彼はすぐにおなかが減る。ヒナはまた、ネズミを狙って走りだした。ただひたすら、走り続ける。
 ヒナは、通常のヒナよりも数倍の脚力を、この生きる過程の中で取得した。 獲物が取れないときは、土を食らい、時には果実を食らいトカゲを食らい日々大きくなっていった。

 気が付けば大人のネズミも捕っている自分がいた。

 強くなっている、あの時より…。大きくなっている、あの時より…。


 こうして体も日を追って大きくなり出したある日。
 彼の最も恐るべき敵、アフリカゴールデンキャットがヒナに目をつけた。
 ゴールデンキャットは素早く飛びつきヒナの背後をガブリとくわえた。
逆らいようのない、絶大な力と経験した事もない激痛に、ただヒナは足と羽をバタつかせた。
 ゴールデンキャットはとどめを刺さずに、体をくわえたままぶら下げ、歩き出した。ここで自分は死ぬのか、そんな思いが頭を駆け巡る。



 まだ柔らかな身体に抜かり込んだ牙がヒナを放さない。激痛に耐えながらどれほど歩いただろう。そこには、ゴールデンキャットの子供が五匹待っていた。
 親は子供たちの前に、ヒナを投げ出した。
 ヒナは逃げる。五匹の猫は素早く追いつき、狂ったように噛みついては投げ飛ばし、また、羽と首を二匹がくわえて引っ張り合う。首がちぎれそうだ。しかし殺さないようにすぐ投げられた。

 五匹の爪で殴られ白い毛は血に染まる。
 無邪気な悪魔の牙と爪が血の落書きをするようにヒナの肉を切り刻む。

「そうだよおまえ達、すぐに殺しちゃダメだよ」
 ヒナはショックで気を失いかけたが必死で目を見開いた。
 子猫たちが狩りの練習をするために親は獲物を生かしたまま与える。
 猫は獲物を殺さずに痛めつけながら狩りの訓練をするのだ。腹も減っていないことが災いし、子猫たちはヒナをいたぶった。
 骨が折れ、血管は切断され、殺しの方程式を無邪気に子猫たちは学ぶ。
 体中を噛まれ、引き裂かれヒナは半殺しにされた。
 こうしてすべての親を失ったヒナはあらゆる経路をたどりながらも最後は死への道をたどっていくのだ。彼もまた全身から来る火のような痛みと出血で気も薄れ、静かに目を閉じた。


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