第5章 生きる戦い
A battle for survival
青黒い筋肉の山を隆起させ、アフリカ水牛が十数頭のメスライオンに囲まれて川辺で戦っている。牛は暴れて目の前のメスライオンを突き上げた。1tを超える大牛はいかにライオンといえども、単独ではなかなか倒せない。
「ひるむな、立ちむかえ、脚を狙うんだ!」
リーダーのメスライオン、ダイナが怒鳴る。
大型草食獣の弱点は後ろ足だ。
水しぶきをあげ、牛は角を振り回して駒のように回り、後ろにいるメスライオンたちを追い払う。しかし一頭が、脚を捕まえた。すばやくもう一頭が脚にかみつき牛の動きが止まる。
「今だ!」
リーダーのメスライオンが急所の首に襲いかかったとき、水牛はその胸を突き上げた。1m以上ある長い角がズブリと抜かりこみ、首を振り上げたとき、彼女は中高く飛ばさた。
また狩りが失敗に終わるのか。もう群れは何日も獲物にありついていない。この狩りが失敗に終われば群れは飢え死にが出るかもしれない。
その時、茂みを突き破って現れたオスライオンが水牛の首に飛びついた。ハーレムのボス、ガインだ。
燃える炎のようなたてがみをなびかせ、ガインは怪力で自分の数倍もあるアフリカ水牛をねじ伏せた。
メスライオン達に水しぶきを浴びせて水牛を倒す。ガインの牙がアフリカ水牛の首の骨をもバキバキと砕く。
群れは二週間ぶりの獲物にありついた。大きな犠牲を払って……。
乾いた草が散布して茂るサバンナの大地に、今日も砂埃を巻き上げてシマウマを追いかけるメスライオン。ガインは顔にハエをたからせながら大きなあくびをする。
向こうでメス同志がケンカをしていた。ガインは立ち上がると、ユサユサと鬣を揺らしてそこへ行く。それだけで、女たちのケンカはおさまり、ピリピリと緊張の糸を張らせたまま、あるものはすりより、あるものはネコになる。
ガインはサバンナの向こうに狩りをするダイナの面影を見た。
(ダイナ……お前の命が、あいつらの命をつないでる……
ダイナ……あいつらの影がお前に見える……)
目を細めるガイン。生と死は隣り合わせの野性、一つの死に悲しんではいられない。それでもガインにとっ
そしてまた、二頭のメスライオンがシマウマを仕留めて持ってきた。ガインは真っ先に獲物に食らいつく。女たちは、彼が腹を満たすまで待っていなければならない。
リーダーは他のオスのライオンからの侵略を守るために常に体力をつけ、敵を迎え撃たねばならないのだ。
俺こそはこの三十頭ものハーレムのボスだと言わんばかりにガインは雄叫びをあげる。そして腹を満たしたら今度は交尾だ。メスには気が荒いものもいて、爪で引っ掻くものもいるがタテガミに交わされる。
遠くの茂みにこっそり身をすくめた若い雄ライオンが恨めしそうにその様子を見る。
強い男しか子孫を残せない。また一方で、不可解な行動をとる雄ライオンもいる。それは数匹の雄のグループで一頭のハーレムのボスや若いライオンを襲う。その原因はハッキリと分かっていない。
そんな殺し屋グループ的存在の噂はガインの耳にも入った。
「ガイン、あんたがどんなに強くても、相手が四頭なら無理だよ」
「グルになるのは腰抜けのすることだ。そんな腰抜けに俺が負けると思うか」
ガインは笑い飛ばしながら、新たな雌のリーダー、ライザの背中に乗った。
「でもあんた、気をつけるんだね。私は子供がいるから、いざっていうときは戦うよ。あんたの愛したダイナの分もね」
「…フッ、女は子供をもつと強くなるんだな」
ガインの熱く重い身体がライザの上に重なった。
「四人の殺し屋の名前はリーダーがゲルムさ。覚えておくんだね。狩りに行って来るよ」
ライザはガインの胸をすり抜け、シマウマの群れる草原へと駆けてゆく。
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