スカイファイターエフ
『鷹戦士F』立ち読み
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第5章 生きる戦い
A battle for survival



 それは数日前のこと、木に止まっていたFに威張ったガインが
「おい、鷹」
Fがふり向いた。
「お前達鳥は惨めだな。そうやって地上の動物から逃げ回って空にいやがる。俺の前まで降りて来い、そんな度胸があるか」
 ガインがニヤリと笑ったそのとき、Fはガイン目がけいきなり急降下する。ガインもさすがに恐ろしくなって捕まえようとしたが目にも止まらぬ速さだ。Fはその背中を引き裂いて舞い上がった。
「貴様あ、降りてこい!」
 背中がビリビリと痛むが自分は悠然と空を舞うFに傷を負わせるどころか攻撃する権利すらない。地を這う全ての生き物は、ただ相手任せに待つしかないのだ。



 Fは自在に飛びながら低空飛行すると再びガインと向き合った。ガインが今度は走って素早く捕まえようとするが得意の垂直浮上でまたも交わされた。地を這うおまえは俺の敵じゃないと、Fの行動がガインにはそう聞こえた。しかし、悔しいがどうしても速すぎて捕まえられない。
 その行動は数時間続いた。Fはガインとの戦いを楽しんでいるのだ。
「おまえ、鷹戦士か」
 疲れてケンカに飽きてきたガインが戦いを終わらせたそうに身構えるのをやめ、声をかけた。
「そうだ、もう終わりか」
「昼寝がしたくなった。ここはおまえの勝ちにしておいてやろう。昼寝の邪魔だ」
 ライオンは一日の半分以上を寝て過ごす。ガインはドスンと座り横たわった。Fは大空に舞い上がった。
 しかしそれから二人は、顔が合うたびに話をするようになった。ストレートにぶつかり合うことで生まれた友情だ。



 ガインは新しい挑戦者と命がけで戦う。ライオンの武器は牙だけではない。大きな爪の生えた前足での殴り合いも骨が砕ける破壊力だ。相手の顔を前足で殴り倒したガインがそのまま力で押し倒し、ついに相手は逃げていく。
 ガインは雄叫びを上げた。その片目は腫れ塞がり、胸からは血が滴り落ちていた。
彼は木の上のFを見つけると声をかける。
「よお、Fじゃあねえかい。久し振りだな」
「見たぜ」
 ガインはその木の横にドスンと座り、威張って言う。
「ライオンとカンムリクマタカはどっちがえらいと思う?
 お前達は男同士が戦うということをするか。女をたくさん持っているか。違うな。男はけなげにも1羽の女に尽くしてエサまで取る始末だ、狩りは女がやる仕事だ」
「俺は毎日が戦いだ」
「ほう、だがたくさんの女を持っている分、俺の方が偉いな。どうだ」
「女がそんなにいいか」
 ガインはこのとき大笑いした。さも可笑しそうに。Fはまったく無表情のままガインを見下ろしていた。
「どっちが偉いなんてどうでもいい」
「なにい、男が偉くなくてどうする?!」

 ガインにはFの冷めた眼光が何処を見ているのか分からなかった。遠い遙か彼方だ。Fはまた大空を飛ぶ。





 空は見る見る曇り、Fは雨を予測してバオバブの木に止まった。その数時間後に滝のような大雨が降る。乾き切った砂が茶色になり泥に変わり、辺りは泥池だらけになり、溢れた水が河を作る。いつもの見慣れた光景だが、その後雨はいつまでたっても止まなかった。
 
 そして、一週間も続いた長い雨が去り、海と化した荒野に行き場を作った雨水が結集して大洪水を起こす。ヌーの群は平野を逃げ惑い、力のないものや足の遅いものは水に流されていく。
 地上の動物たちは襲いかかる濁流にただ、逃げ惑うしかなかった。土砂が逃げ遅れたヌーを飲み込む。豪雨で出来た河と岩の間にある少ない陸地が削り落とされ、少数のシマウマの群れがおしくらまんじゅうしながら自分だけは生き残ろうと懸命に中へ中へと入り込もうとする。その群れの真ん中にいるものは圧死する。生命を潤す水は、ときに悪魔となって動物たちを間引きしていく。

 そんな陸地の獣たちに大空を飛ぶ鳥は自由なものだ。Fはその様子を空から見下ろしながら、風に身を任せ獲物を探した。そして、河辺を逃げまどう小型のレイヨウをかっさらう。
 こうして一週間が過ぎ、水害は嘘のように原野はかわき、夕暮れ時、いたるところに散布した死骸を貪るハイエナやハゲワシたちがいた。

 と、そのとき、Fは数匹のライオンと戦っているガインを見た。
 複数との戦いというのは珍しい。
 一体何が起きたのか。あの殺しのグループが、ついにガインに目をつけたのだ。
 ゲルムはガインと同じぐらい大きい。ナンバー2のマッド、子分のビリーとバギーは二頭の格闘を輪を作って視察ながら、飛びかかるチャンスを窺っている。ガインは強い。横から飛びかかったビリーがガインに気付かれ、そのパンチにノックアウトされた。しかし左右からマッドとバギーが背中や脇腹に噛みつき、ついには引き倒される。メスライオンの中で、あのライザが一頭向かってきたがゲルムに殴り飛ばされて気を失い、その行動に追随しようとした者たちを唸り声で遮断する。
 そしてガインの抹殺が始まった。
 体中に噛みつかれ殴られ、ガインは死の恐怖に逃げ出した。グループはしばらく追いかけるが、回りに雌がいることに気が取られ、吠えながらメスたちを黙らせる。
「俺がこの新しいハーレムのリーダーのゲルムだ! お前たちは俺の女だ!」
 ガインの子ども達はすぐにも食い殺されていった。ハーレムを乗っ取ったオスライオンは皆、前の子供を殺し自分の子孫を残す。ハーレムは血まみれになった。その時信じられないことがおきた。雌達はそんなゲルムに発情したのだ。


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