第4章 戦争の鷲
Martial eagle
そして、戦いは始った。
戦いの火蓋は高いポジションを取ることから始まった。
両者は上昇気流を使って高く上った。Fは素早く掴みかかる。ギルスは迎え撃ち、両雄は空中で互いの脚をつかみ合った。そしてそのまま引っ張り合い錐もみ回転しながら落下する。
竜巻の真っ直中にいるような遠心力と風圧を受けながらの力比べだ。羽の強さはギルスだが握力はFが勝った。
(指が!)
ギルスの指が一本折れた。これ以上降下すれば地球と激突だ。Fも同時に離れると、今度はスピードにものをいわせてギルスの背中を蹴る。羽がむしり取られ血が吹き飛ぶ。
「爪のF、怪力のギルスか」
スカッドはただその戦いの空を旋回し続ける。スキを付いて上空高く舞い上がったギルスが急降下に転じFを襲う。あの巨体で上空からたたき落とされたらジャンゴーの二の舞だ。Fは瞬時に垂直上昇するがギルスは読んでいた。
〈カンムリクマタカの垂直浮上はお見通しだ!〉
Fは交わしきれずに背中を蹴られて吹っ飛ぶ。ギルスはここぞと追い打ちをかけて再び背中を蹴った。重い蹴りにFの身体が沈む。
Fは水平飛行のスピードでギルスを突き放した。
(もろに入ったら死ぬかもしれねえ)
両雄は再び向かい合い、脚を突きだし合う。
(勝負だ!F)
互いの蹴りがモロに胸に入った。その衝撃でふたりとも地面に真っ逆様に落ちていく。身体がしびれて動かない。胸から熱いものが流れる。Fは生への執念で必至に羽ばたいた。そして、あと地面まで十数メートルのところで舞い上がった。見るとギルスも地面スレスレを安定した飛行で飛びながらようやく舞い上がった。しかし急に落ちた。
ギルスはやっとの思いで木の枝を掴んで握りしめ、一命を取り留めた。その胸はザックリと切れている。
Fが勝った。
彼の胸にはギルスの爪痕が残っている。Fは向かいの小高い岩の上に留まってギルスと向き合った。
「ギルス、お前が許せなかった」
「なにい…」
「俺にとってファイトは命をはった勝負だ。お前は俺との勝負を捨ててグランに襲いかかった。お前にとってスカイファイターとしての誇りはその程度だったのか。
だから俺は、絶対にお前に負けるわけにはいかなかった」
「お前に、俺の恨みが分かるか。両親を目の前で食われた。ハイエナどもにな!」
ギルスは呪うような目でFを睨み、そして遙か爆音とどろく戦場を睨んだ。
「俺は生き残るために、弟を殺した」
「なに…」
Fの目が、その一瞬だけ悲哀に満ちた。
「お前の親父は何と言った。ハイエナと戦争をしろと言ったのか」
ギルスはあの記憶を思い出した。
−ギルス、世界最強の鷲戦士になるんだ!−
確かにそう言った。
「ハイエナと言うだけで見境なく殺す。肌の色の違いだけで殺し合う人間のやり方だ。憎しみから生まれるものは、憎しみしかない。馬鹿な奴らだ。自分の夢を見つければいいものを、憎しみに流されて真実を見失う」
「真実か、俺たちの真実は何だ」
「鷹戦士の真実だ」
勝ち続けること、道を究めることではないのか、真実を追いかけることほど辛いことはない。真実を貫くほど強い意志が必要なものはない。あの場面でFと戦いを続けるべきだった。それが鷹戦士の真実。
「グランは立派な奴だった。ハイエナにはハイエナの真実がある。生き残るべく命を捨てたグランに、お前は真実で負けている。無意味な戦争を続ける人間のようにな」
Fの言葉が矢のようにギルスの胸に突き刺さった。
「何故人は戦争をするんだろうな」
スカッドは遙か戦場に目をやった。
「弱いからだよ。そして流されるからだ」
「確かに俺は流されていた……。弱かった自分を呪った。あの時飛べなかった自分を今も呪っている!俺のために死んだんだと」
「ギルス、憎しみの力が、鷲戦士の真実の力になったとき、お前はもっと強くなるぜ」
スカッドはギルスに向かって頷きながら友情の視線を送った。
Fは大空を見つめギルスに言った。
「その時にまた、俺と勝負だ!」
そして大空に舞い上がる。ギルスの心に今、朝陽が差し込んだ。
その一四日後、傷も言えたギルスはアラビアへ向かった。
愚かな戦争を続ける人間達が、真実を悟ったとき、そしてそれを貫く強い意志と勇気を持ったとき、戦争はなくなるだろう。弱いから戦争をする…。
Fはアフリカ最強の地位さえも捨てるように、北へ向かった。地位さえも真実ではない。何故なら道が真実なのだから。鷹戦士の真実は勝ち続けることなのだから。
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