スカイファイターエフ
『鷹戦士F』立ち読み
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第二章 ベルクート允 
Berkut Joe


 カクシャールは確実にムラトベックの腕に戻ってくる段階まで来ていた。そして獲物に飛びかかる稽古が始まる。
 シカの頭の皮や生きたニワトリなどを使って、カクシャールは稽古をこなしていく。

 そんなある日。

 いつものようにムラトベックがヒモをつけたシカの頭の剥製をソリにつけて引いて雪の山の傾斜を走りはじめると、祖父が小高い丘の上からカクシャールを放った。
(いつまでも調子に乗ってるんじゃあねえぞ!)
 カクシャールは雪の斜面を急降下し、ムラトベックに向かって来た。彼は狙われていると気付いた瞬間戦慄するが、すぐに茂みに隠れた。猛然と襲いかかるカクシャール。ムラトベックは雪面にうずくまりカクシャールの気が修まるのをひたすら待った。
 こんな時も鷹匠は決して反撃してはならず、痛い目に遭わせようものならワシはそれきり断絶状態になる。
 野生動物の飼育や調教において全くワシやタカほど厄介なものはない。サーカスではライオンやトラでさえムチに怯え言うことを聞く。しかし、プライドの高い彼らは恐怖で従わせるということが出来ないのだ。
 タカを主人と思えという原点はそこにある。
 そのとき、允が大空に現れ、カクシャールを威嚇するようにガッ、ガガッと鳴いている。カクシャールは舞い上がった。
「馬鹿者!なぜ允の小屋の戸を閉めておかなかった!」
 祖父が怒鳴った。
「大丈夫だ、允はケンカなんかしねえ!」
 ムラトベックは允にだけは絶対的な信頼を置いていた。だから普段から、小屋にも入れず放し飼いにしている。ムラトベックは彼を信じて何事もなく収まることを祈った。允とカクシャールは互いに旋回しながら上空で言葉を交わしていた。
「オオカミを狩れない奴が生意気に人間にケンカ売ってるんじゃねえ!」
「人間のイヌが何を言うか!」
「あいつはいい男だ。俺とあいつは友だ。友に襲いかかるものは、お前でも許さんぞ」
「なら俺とケンカするか」
「お前は俺の敵じゃあねえ、オオカミも捕れない腰抜けが一人前の口をきくな」
「貴様あーっ!」

 カクシャールが襲いかかってきた。しかし余裕を持って交わされる。益々いきり立ったカクャールを允はあしらう。その様子を下で見守っていたムラトベックはうなずく。
「大丈夫だ。允なら大丈夫だよ。あいつは俺が今まで見たイヌワシの中でも一番強くて頭もいい。あいつは全て分かっているんだよ。あんな若いワシを、本気で相手になんかしないさ」
 祖父は半信半疑で上空の二羽をただ見つめていた。カクシャールは次第に飛び疲れてくる。允は冷静にその様子を見極めながら言う。




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