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◆◇◆立ち読み1◆◇◆
『うさぎになった男』


 序 章

 人はそれぞれ、姿が違う。ハンサム、ブサイク、美女にブス。かわいい人、鬼瓦、スマート、中肉、デブ、チビにノッポ。
 人はそれぞれ、心が違う。優しい人、冷たい人、意地悪、臆病者、短気、あわてん坊、ドジ、泣き虫、怒りん坊、ヒステリー、恥ずかしがり屋、うぬぼれ屋、勝ち気な人、プライドの高い人・低い人、お調子者、むっつりスケベ、ネアカにネクラ。
 あなたはもうお気づきだろうか。
 人の容姿をたとえる言葉よりも、人の性格を表現する言葉の方が遙かに多いことを。
 それは人が、姿より心を重視して人を見ているいるからだ。
 だが、人の姿をした獣もいる。あるいは、動物の姿をした人もいる。そう、あの男のように。
 人はそれを悲劇と呼ぶかも知れない。しかし、ヤツは言うだろう。
「俺は幸せ者さ。本当のものが見えるから」




第一章「俺、うさぎになっちゃった」


「バレンタインデー!」の巻


 鏡の前で寝癖ヘアーを整える少年がいた。宇佐跳男(ルビ:うさはねお)一七歳。
 切れ長の涼しい目元、通った鼻筋、整った輪郭、どれをとっても文句なし。ちょっとワイルド系の美少年である。
「俺っていつ見ても、いかしてるよなあ」
 朝陽に光る跳男の目には、一年一度の今日に賭ける思いがみなぎっていた。
「よっしゃあ、これで決まりだ」
 セットを終えると跳男は小走りでらせん階段を駆け下りて靴の紐を結び始める。
「跳男さん、もう出かけるの。まだ六時よ。三人で朝ご飯食べましょう」
 台所から声がする。
「冗談じゃねえよ、今日は忙しいんだ。悪いけど猫太は母さんが起こしてくれ」
 玄関から愛車のSR250に飛び乗ると、街へ向かって走り出す。
「ちょっと待ちなさいよ。ミネストローネができたわよ。跳男さん!」
 鶏子は玄関に走る。しかしもう、エンジンの音は朝陽に消えていた。
「もう、仕方ないわね。猫ちゃんを起こしましょう」鶏子はもう一人の息子の部屋へ行く。
「はーい、猫ちゃん。もう起きるわよ」

 早朝の駅前。
「あら、跳男くん早いわね」
 コンビニのお姉さん、美和子がニコリ。
「はい。今日は美和子さん深夜だって言ってたじゃん。美和子さんの笑顔を見たくってさ」
「まあ、嬉しいこと言ってくれるのね」
「またカラオケ行きましょうよ」
「そうね。また跳男くんの美声を聞きたいし」
 跳男は手にした商品を渡しながら、
「なんでも歌うよ、リクエストして。今度は二人で行きたいな」
 美和子はレジを打ち、「えーっ、それって何か意味深なお誘いね。まっ、いいか。あっそうだ、ちょっと待ってて」
「えっ?」跳男はニヤッと笑って奥へ行く美和子を見つめていた。ロングヘアーを後ろで結び、制服がいかにも大人のムードを出している。
「はい、これ。今日はバレンタインデーよ」
「えっ、あーっ、そうでしたね。いやあ悪いなあ。全然忘れてた」 
「ふふふっ、そういうところがいいのよね、跳男くんは。でもモテるんでしょうね。あたしみたいなおばちゃんじゃ、他のライバルに叶わないわよね」
「なに言ってんですか、俺の本命は美和子さんただ一人ですよ」
「ええっ、本当?」
「決まってるじゃないですか」
 そういって彼女を見つめさわやかに笑い、跳男は店を出る。
(へへっ、うまくいったぜ。これで二回目のデートもカラオケで決まりと。それにしてもいつもきれいだよな。大人っぽいところもグッド。うん、やりたい!)
 コンビニで買ったおにぎりを素早く押し込み、跳男は次なるターゲットに狙いを定める。目指すはパン屋さん。
「おはよ」
「あっ、跳男さん。おはよう」
「いつも頑張ってるんだね。香織ちゃんのパンを食べないと、朝の元気が出なくってさ」
 ショートカットにキュートな笑顔、白いエプロンがよく似合う。
「まあ、それで今日のご注文は?」
「いつものね」
「ハーイ、あっ、そうだ。ちょっと待っててね。すぐ来る」そして跳男の計算通り「はい、バレンタインチョコレート。今日はたくさんもらうんだろうけど」
「うわっ、うれしいなあ。いいの。俺なんかに」
「うん、まだ寒いから、マフラーにしたの。あとこっちは猫太くんにあげて。またお店にも来てねって言っておいて」と言って跳男の倍の大きさの包みを渡す。
「なんだよまた猫太かよ。香織ちゃんはいつも猫太だもんな。ありがとう、またあいつに会いに来てくれよ。あいつも喜ぶからさ」
「うん、頑張ってって言っておいてね。私も頑張るから」
「おう、じゃあまた来るよ」
 跳男はまたバイクにまたがると、勢いよくアクセルを踏む。
(香織ちゃんはキュートで可愛いところが魅力、うーん、あの純粋な目で見られるとキューンとくるぜ。あー、入れたい!)
 彼はこの街の美女マップを作っていた。きれいな女の子を見ると必ず声をかけ、何度か話して気が合えばデートに誘う。デートコースの定番はカラオケ。そこで自慢の喉を聞かせて一気に口説くのだ。赤ペンでチェックをしながら、彼は山のようなプレゼントをバッグに押し込んでいく。
「へっへぇん、やっぱ男の夢は、ハーレムだよな。美和子に香織に優子にアンナに、でへっ、よだれが出てくるぜ。神がくれたこのルックス、有効に使わないと罰が当たるってもんよ、イヤッホーイ!」
 SR250はスピード違反スレスレにビルの谷間を縫っていく。
 
 ここは跳男が通うKO高校。
 机の上には山積み、中にはギュウ詰めのチョコレート。跳男は早速選り分けし始める。
「そこのひとかたまりはお前にやるよ」
「世の中不公平だよなぁ。金も女もお前が好きなんだよな」
 笹木は、いつも跳男につきまとっておこぼれを頂戴している。背が低く顔は四角くてチンパンジー、彼が一緒にいると跳男のいい男っぷりがますます光る。
「あっ、幸子からも来てる。ちきしょう、そういえば優子はどうだった?」
「ああ…、美人の割にはいまいちだったよ。何かこうよ、ノリが悪いんだよな。おしとやかで誠実でよ、いいんだけどピンとこないんだよ」
「贅沢なヤツだな。お前にはもったいないよ」
「俺もそう思うよ!」

 跳男は、金持ちが行くことで有名なKO高校の二年生。元ミスユニバース日本代表を母に持つ。その甘いマスクは女生徒を魅了していた。また勉強もスポーツも器用にやりこなせる彼は、うまくやれない者の気持ちをわかろうとしない。
 成績は常に首席、授業中には専門知識を仄めかして先生達を手玉に取る。だから先生達は彼に突っ込まれまいと常に完璧な講義に取り組まねばならず、彼のクラスの授業がある日は緊張する。そしてまたため息をつきながら教室から出てくる先生が一人。先生の名前は地理鳥地図男(ルビ:ちりとりちずお)日本でも有数の地理の先生である。
「今日の地理の講義は我ながら完璧だった。さしもの跳男も、何も言えなかったな。ざまあみろ!ひっひひひ」
「お疲れさん」
嫌味な声にギクッと立ち止まる。
その声の主は、泣く子も黙る跳男だ。
「いやあ、先生。今日の地理の授業は大変良くできました」「ハッハッハ。当たり前だよ」
「と、言いたいところだが一つだけ間違っている。あなたはアンデスの文明を語るにあたり彼等がなぜコンドルを崇めるかについてこう語った。『確かにコンドルは飛ぶ鳥の中で最強です』などと」
「な、なにかおかしいか、跳男君!」
「確かにコンドルは大きく立派な姿をしている。しかし最強ではない。もともとあの鳥はハゲワシと同じく死肉や動物の糞しか食べず、自ら狩りをすることもない。
だから生きた獲物を捕る他の鷲鷹類に比べ爪もくちばしも弱ーくなっています」
 跳男は先生の頬をなでなでする。
「コンドルは最強だ!私は現地に行って住民達とも話してきたんだぞ!」
「牛の背中にコンドルを縛る儀式は確かにあります。その牛は闘牛にかけてスペインを意味し、コンドルはアンデスの守り神。しかしそれで最強などと言われては困ります。世界最強と言われている鳥は!世界に三種類います。フィリピンのサルクイワシ、別名フィリピンワシ、アフリカ南部のカンムリクマタカ、そしてもう一つ、ご存じですか」
「コンドルだ。コンドルもその中の一つと言うことだろう」
「いいえ、コンドルと同じ南アメリカ原産でも、世界最強とさえ言わしめるオウギワシなんです。まあ、あなたは地理の先生にしか過ぎないから、あえて生徒達の前で訂正はしませんでしたが、間違いを教えられては困ります。以後、憶測でものを言うことはしないように。また、わからないのなら、知ったかぶりをしてはいけません」
「くーっ」
 四五歳の地理取は歯を食いしばって悔しさを噛み殺す。そしてそこにはいつのまにか生徒達の取り巻きが出来ていた。
「あっ、みんな。だめだよ先生と僕の話に割りこんじゃ」
「コンドルは最強じゃあねえぞ地理取、嘘を教えるな」
「そうだそうだ!」一気に集中攻撃が始まる。
「みんな、だめだよそんなに攻めちゃあ。先生は地理の先生なんだから、分野外のことは知らないんだから」
(くそーう、完璧な授業をしたつもりだったのに!)
「やかましい!コンドルが一番強いんだ!私は現地に行って見てきたんだ!鳥の本を持って来るから待っていろ!」地理取先生は生徒をかき分け小走りに廊下を走っていく。
「いいぞ!跳男」
「ハ・ネ・オ!ハ・ネ・オ!」
 毎度おなじみの跳男コールが起きる。
「おい、だけどよお、そのカンムリ何とかっていうの、俺聞いたこともねえんだけど」
「オウギワシっていうヤツが一番強いって本当か」
「本当さ。その証拠に、地理鳥先生は来ないから」
 跳男はポケットに手を突っ込んだまま、グラウンドへと歩いていく。

 そして放課後のグラウンド。
 そこではサッカー部の紅白戦が行われていた。グラウンドの片隅では女の子達がお目当ての選手に熱い視線を送り、きゃーきゃーおしゃべりをしている。
「鈴木先輩のドリブル、かっこいいわーっ。正にフィールドの貴公子よね」
「あら、私はちょっと野性味がある海藤君がいいわ。男らしくってさ。あんな人に抱かれてみたい」
「いやだ景子なに言ってんのよ」
「いいじゃない。オトコもオンナも行き着くところはそこなんだから」
「まあね。でもさ、海藤君ってまだ童貞って噂があるけどそれって本当かしら」
「鈴木先輩が言ってたわ。私、試してみようかしら」
「ねえっ、でもさ、今年のうちは優勝候補に挙がるだろうって言ってたわよ。なんかすごいことだと思わない?」
「たださ、今サッカー部の雰囲気は良くないとも言っていたわよ。選手達がちょっと自信過剰になっているから、シメないといけないって」

「なにやってんだ来生。俺達は優勝候補なんだぞ。そんな甘いパスはカットされるぞっ!」 先輩がサッカーボールを来生の胸に蹴り込む。例によって後輩いびりが始まった。今度は取れるはずもないパスを鈴木が来生に蹴り、取れないとまたボールを腹に蹴り込む。女の子達にはそれがイジメだと分からない。監督は見て見ぬふり。
「鈴木先輩は、来生君がかわいいからああやって鍛えているんだって言っていたわ」
「そうよ。とっても後輩思いなのよ」
「違うな。あんなパスは誰にも取れない」
「跳男くん」
 彼女たちが振り向いたそこには、あの跳男が立っていた。
「ああいうのを、弱い者いじめっていうんだよ。見ているとムカムカしてくる」
 いつも彼に付きまとう笹木がまたも横にいておこぼれを頂戴しようとしていたが、跳男はよからぬ事を考えているようだ。
「あのさあ、あんまり取り合うなよ」
 女生徒たちの視線が彼一点に絞られる。それらの視線を誘うように跳男はニヤリと笑うと、フィールドへ飛び込む。
「俺しらねえ」笹木はしっぽを巻いて逃げていく。
「鈴木先輩、ドリブルが甘いっすよ!」
 何と跳男はチーム一のキープ力を誇る鈴木にスライディングタックルを浴びせ、あっさりとボールを奪い取るや他の部員達を挑発する。
「俺のボールを取ってみろ!」
「ちきしょう、この野郎!」
 襲いかかる部員達を押しどけ跳ねのけ、跳男は目にも鮮やかな弾丸シュートをゴールに蹴り込む。部員達はあまりのテクニックに愕然とする。
「小学生の頃夏休みに父の仕事で一緒にブラジルに行ったんだ。マラドーナツって元プロに一ヶ月間教えてもらったのさ。あれ以来久しぶりにボールを蹴るんだけど…」
 サッカー部員一同を冷たい目で見て、「君たち下手だね」と言い捨てる。
「な、何だとお」海藤が腕をまくる。
「いい気になって後輩いびりするのもほどほどにしときな。こんなんじゃあ初戦敗退だよ。じゃあな」
「このやろう、ふざけるな」怒ったレギュラー達が追いかける中、
「鈴木先輩」
 三年生の女生徒が「はい、チョコレート」
「えっ、あ、ありがとう」高校一の美女アンナの声に、鈴木の怒りも納まりかけた。その矢先に、
「って思ったけどやーめた。何よ意地悪先輩、あんなやりかた、サイテーよ。跳男くーん、あなたの方がすてきーっ!」
 女学生達の視線は一気に跳男に集まった。跳男はバイクに飛び乗ると、追いかけてくるレギュラー達に排気ガスを浴びせて街へと消えてゆく。

 そして女生徒たちがたむろする学園内のカフェテラス。
 授業の後に彼女たちはここで一息つく。話のネタはファッションからテレビや映画など幅広い。そして話題の中心は、やはり男である。好きな異性との交際状況、キスまでいったとか、いくところまでいったとか。
「跳男くんはずば抜けて格好いいわよねっ!あたし、彼の顔が好き」
「スタイルよ、スタイル抜群じゃない」
 テーブルを囲んでカフェオレを飲む女子生徒達の中で、一人静かに跳男の写真を見つめる女の子がいた。
「ねえ、あんたは跳男くんのどこがいいの」
「わたし?…ハートかな」
「えーっ!」
「そんなに驚かないでよ、どうして」
「性格はけっこう嫌味なところあるじゃん、なんか偉そうにしちゃって」
「あのルックスだから許せちゃうのよね」
「彼って、確かにそういうところもあるけど、弱いものをいじめるってことはないわ。先生とかサッカー部のキャプテンとか強い人に挑戦して、本当は自分が何をしたいのか分からないから、あえて強い人を選んでうち負かして憂さ晴らしをしている、そんな気がするの」
「あなた凄い洞察力ね」
「でも跳男くん、あなたに気はないみたいよ。今度の日曜日合コンがあるの。あんな男忘れてあんたも参加したら」
「やめとく。気が乗らない」
 彼女の名は白鳥優子。恋に関しては燃えにくく冷めにくい、そんな女の子で、学園のスター跳男をいつも遠くで見守っている白鳥財閥の一人娘である。他の女の子達と、合コンに行くこともない。男の子に愛の告白をされても、軽く付き合ってみようかということもない。かといって迷惑がらず丁寧に「ごめんなさい」と誠意を伝えるので、ふられた男達も彼女を悪く言うこともない。奥に秘めた熱い思いを、他から邪魔されないようにしているような、ちょっと変わった女の子だった。
「じゃあ私、ピアノのレッスンに行ってくるから」
「そう、頑張ってね」

 そしてここは再び朝の駅。
「やあ、待たしたな」
「主役が来ないと始まらないぜ」
「そうよ、今日は跳男くんの噂が本当かどうか、確かめにたくさん友達呼んできたんだから」
「おいおい、何を確かめるっていうんだよ」
「あなたの歌声よ」「へっ、俺達ゃどーせ脇役かよ」
 そこにはあの笹木もいた。跳男にくっつき回ることで女の子と接する機会も増えるからだ。一行は繁華街へと消えてゆく。
 夕方五時に男女合わせて一〇人を越えるメンバーが目指すはカラオケハウス。跳男はみんなが一通り歌い終わるのを待った。
 茶髪でロン毛、跳男の次にいい男のギタリスト、宇多田影夫の歌声がみんなを驚かせ感涙させた。
「すげえよ、おまえ」
「わたし、びっくりしちゃった」
目をそっと押さえる女の子達。
 宇多田はどうだとばかりに、「おい、次誰が歌うよ」
「僕が歌わせてもらっていいかな」名乗りを上げたのは跳男だった。
「ああ、跳男か。そういえばお前まだ歌ってなかったな」
 宇多田影夫が余裕しゃくしゃくの表情でニッコリと笑顔を浮かべて、跳男にリモコンを渡す。が、しかし。
 静かに歌い出した跳男の、絶妙な艶のある声。一瞬にして回りの空気が跳男一色になる。衝撃が走った。男達は感激に打ち震え、女達は号泣してしまう。そう、跳男の一番の才能はボーカルであった。
 みんなが妬みすら忘れるほどに感動し、
「跳男、俺のリクエストに応えてくれ」とマイクを差し出したのは、涙に頬を濡らした宇多田影夫だった。それからは跳男のオンステージとなる。
 激しいロックにみんなはノリノリ、一気に元気が爆発する。そして悲しい歌はとことん悲しく、七色の声を操る跳男の前にみんなの感情は揺さぶられた。
「そうだ、もう帰らなきゃ」
「何よ、まだ八時よ。今からが本番だっちゅうの」
 女の子が胸を両腕で抱き寄せてその谷間を見せ、跳男を引きとめる。
「うおっ、胸あんなー、食べちゃいたい」
「食べていいから、もっと歌ってよ」
 そのセリフに周りから拍手が沸き上がるが、
「ほんっと悪い。今日はダメなんだ。アメリカから親父が帰ってくるんだ。久しぶりだからみんなで夕食しようって。またこれるじゃん。カラオケは逃げないからよ」
 跳男は小走りに肩にコートをひっかけ、みんなの分まで料金を払ってカラオケハウスを出ると冷たい風の中に消えていく。


「アメリカ帰りのゴッドファーザー」の巻

 夕食後、跳男はベッドに寝転がった。そして、久しぶりの帰宅でともに夕食の席に着いたさっきの父の言葉を思い出していた。
 父は、自らの才覚で一代で築きあげた大手電気製品会社の社長である。身長185cm、体重79.79kg。誰もが認めるナイスガイ。その名は犬男。
「あの時は命がけだった。ライバル会社がまさかうちの新製品を盗みにスパイを使うとはな。ワシは車に乗りかけたスパイの肩を掴み腕をへし折ってやった。向こうからマフィアが駆けてきやがったからダイナマイトを投げてやったら腰を抜かして逃げていきおった。ガッハハハ、日本男児をなめるでないわ。のう!跳男」
 犬男は痛いほど強く跳男の肩を叩く。
「はい、父さん」
「まあ、あなたそんなことがあったなんて、そういうときは逃げて下さいよ。でも、格好いい。素敵だわーん」
 20代前半にも見える元ミスユニバース、鶏子が抱きつく。
「んーっチュッチュッチュッもう!」
 鶏子のキス攻撃に犬男はでれでれ。跳男と猫太は目のやり場もなく肉を頬ばりスープを飲む。
「跳男、相変わらず首席らしいな。うむ、男は何でも一番でないといかん。とにかく勉強しろ。それから…なんだ、あんまり女とは付き合うな。何かと面倒だからな。ワシの若い頃は全く女っ気がなかったもんだ。男はまず仕事第一。女に目を向けるのは仕事がちゃんと出来るようになってからだ。お前は我が会社のあとを継いで、立派な社長にならんといかんのだからな」
「はい、父さん」(ウソばっかり、父さんは僕以上のプレイボーイだったって叔母さん言ってたぞ)
「よし、猫太、お前は勉強はちゃんとしとるか。遊んでばっかりじゃいかんぞ。少しは跳男を見習って勉強しろよ」
「・・・・はい」
「あなた、猫ちゃんは頑張ってるのよ。そんなに言わないで、かわいそうよ!」
 いきなり鶏子が犬男の膝から飛び降り、猫太の頭を抱きしめる。
「分かった分かった」
 そう、鶏子は猫太を過保護すぎるくらい過保護に甘やかし、ちょっとでも犬男や跳男が注意したり口論にでもなろうものなら突っかかった。だから猫太も逆にいつまでも甘えて内気な性格が治らなかった。
「猫ちゃんは好きなことに一生懸命頑張っていればいいのよ」
「まあ跳男、お前が長男なんだからしっかり頑張るんだぞ。未来のうちの会社はお前にかかっているんだからな」
 犬男は頼もしげにまた跳男の肩を叩く。
「はい、父さん」
「声が小さいぞ!」
「はい、父さん!!」

 跳男は夕食時の事を思い出しながら、一人憂鬱になっていた。奥の部屋からは犬男と鶏子の戯れる声が響いていた。
「あーん、いや、やめてあなた!」「やめてといってやめるバカがおるか!ガッハハハハ…」「あっ、あん、そこはいやーん!」
 二人の部屋から、幅広く長い廊下を挟んでその戯れる声が洋間まで響いて聞こえる。
「フウ、全くおやじも好きだよなー。聞いてるこっちの方が恥ずかしくなってくるぜ」
 ソファに寝そべっていた跳男はマンガ本を顔にかぶり寝返りを打つ。そこへ車椅子の音がして猫太がやってきた。
「今日はまた久しぶりだけあってすごいね。しかし兄貴は大変だよなぁ。親父の期待にいつも応えなきゃいけないんだからなあ。僕なんかその点気が楽さ。それより僕の部屋に行かない?ここだと二人の声がモロにするんだもん。聞いてるこっちの方が、恥ずかしくなってくる」
「やりたくなってくるんじゃないのか」「何言ってんだよ、僕にはまだ早いよ!」
 猫太は赤くなって怒る。すでに何人もの女の子とHしたことがある跳男には、ムキになる弟がかわいかった。
 跳男は車椅子を押しながら弟の部屋に入ると、ソファーに座り片手に持っていた車の雑誌を見始める。猫太はパソコンの前につき、ヘッドホンをつけ何やらし始める。彼は生まれつき身体が弱く車椅子の生活を強いられていた。学校にも行かず家庭教師を雇い、母親は甘やかし、父親からは見放されていた。家に閉じこもりっきりの彼は色も白く、母親似で女の子とよく間違えられる。外に友達もいない。
 そんな猫太が熱中しているものは作曲。しかし内気な彼は、誰に曲を聴かせるわけでもなくただ一人でパソコンに向かい、コツコツと音譜を打つ毎日であった。だが跳男は逆にそんな弟をうらやましく思っていた。
 気がつけば時計は一二時を指している。
「猫太、お前毎日パソコンやって楽しいか」
「うん、まあね」チョコを食べながらも猫太の指は動き続ける。
「俺さあ、なにか打ち込めるものが欲しいよ。お前みたいにさ」
「兄貴はなんでもできるじゃん。その気になれば」
「なにがしたいかわからないんだ。できるのとしたいのとは違うだろう」
「ふうん、そうか」
「なにをやってもすぐ一番じゃ、かえっておもしろくないもんだよ」
「へえ、贅沢な悩み」猫太は手を止めて伸びをする。
「今日はいろんなことがあったぜ。疲れちまった。お前も寝るか?」
「そうだね。父さんと母さんも忙しそうだし」
「よっしゃ」跳男は猫太を抱き上げベッドに座らせる。
「あとはいいよ、おやすみ」猫太はパジャマに着替え始める。
「おう、じゃあまたな」
「兄貴待って!」なぜかその時猫太はわけもなく跳男を呼び止めた。
「なんだよ、どうした」
「いや、なんかへんな胸騒ぎがしたんだ」
「まさかその年になって一人で寝るのが怖いとでも言うのか」跳男はまたからかう。
「違うよ、おやすみ!」
 跳男は部屋を出ていく。朝のままの部屋に戻ると、跳男はいつものようにパンツ一枚になりベッドに大の字に寝転がり、深い眠りにおちていった。


 「ウサギになる日」の巻

 その夜の異変を知る人は誰もいない。しかしその日は確かに、いつもと違っていた。
 宇佐邸は五〇〇〇坪の豪邸。中庭にはプールがあり訓練されたドーベルマン五匹が放し飼い。四階建ての最上階に跳男の部屋はある。
 その夜はこの豪邸の遙か上空を、なんと薄紫のオーロラが翻っていた。眠り続ける跳男の部屋の窓ガラスにも、その光は射し込む。跳男はうなされる。自分の身体がフワリと宙に浮かんでいるような気がした。そして魂だけが体から出ていくような、幽体離脱現象に陥る。

「跳男さん最近会ってくれないのね。何かあった?」
「悪いけどさ。俺、もう優子のこと、好きじゃないんだ」
「ひどいっ!あたし…。死んでやる!」優子は泣きながら走り出す。
「待ってくれよ!そんな、死ぬなんて…」跳男は逃げる優子の肩をつかみ、振り向かせた。
「う、うわー」
 なんと優子の顔がウサギになっているではないか。
「跳男くん、一生呪ってやるからね」
「う、うわー、大変だー!」
 跳男は夢中で逃げ出す。すると、街中の全ての人の顔がウサギになっていて、慌てて逃げる彼に気付くや追いかけ始める。
「ウサギのどこが悪いんだよ」
「ウサギだっていいじゃないか」
「あいつもウサギにしてしまえ!」
 いつのまにか街人たちの体は消え、ウサギの頭だけが彼を追いかけていた。
「うえーっ!たた、助けてくれーっ!」
 
跳男はハッと目を覚ました。(ふー、それにしても怖い夢だったな…)
 身体が変だ。ふと動いた拍子に巨大なパンツがずり落ちた。
「なんだ?このでけえパンツ」
ふと、ベッドの横にある鏡を見る。
「ん?ウサギ…!」
 しかしどうもいつものように動けない。歩こうとすると跳ねてしまう。
「まさか…」
 鏡に映っているそのウサギの姿、それはまぎれもなく跳男の姿であった。
 そう、あのパンツは昨日跳男がはいて寝たパンツだったのだ!
「嘘だーっ!」


「ど・ど・どうしよう」の巻

 跳男は目を疑った。
 嘘だ!悪い夢だ!覚めるもんなら早く覚めてくれ!
 跳男は恐怖のあまり部屋中を跳ね回った。壁に頭をぶつけ机を滑り落ち、それでもまたジャンプして今度は花瓶に頭を突っ込む。
 しかしこの痛みは現実だ。今度は息が苦しくなってきた。
 真っさかさまに花瓶に頭を突っ込んでいるので、もがいてももがいてもなかなか頭が抜けない。
(くっ、苦しい!誰か助けてくれ!)
 跳男は心の中で叫ぶ。ちょうどそこへ現れたのは、騒々しい物音に異変を感じた猫太だった。
「あれ、兄貴ーっ!どこだよ」
(ここにいるんだバカ野郎!早く来てくれっ!し、死ぬーっ!)
 跳男は生まれて初めて死と直面した。嘘のような現実、そして今、苦しくてもがいている自分がいる。
(ちきしょう、一体どうなってんだ、俺はここで死ぬのか!)
 と、その時、「おいウサギ、お前なにしてるんだよ。バカだなあ。花瓶に頭突っ込みやがって。兄貴を知らないか」
 死ぬ直前の跳男の身体を、猫太が花瓶からスポリと引っこ抜く。
 跳男はぜえぜえ息を切らしながら猫太を見上げて、
「ふう、死ぬところだった。ありがとうよ」  
 猫太は仰天して、「ウサギが・・・・しゃべった」
 跳男はその「ウサギが」という言葉にふと我を取り戻し必死に説明する。
「俺だよ、兄貴の跳男だよ。朝起きたらこんな姿になっちまってたんだよ!頼む、信じてくれ、俺が跳男なんだ!」
 猫太はしばらく呆然と言葉をしゃべるウサギを見ていたが、やっとの思いで
「分かったよ、だってぼくのこと猫太なんて言うウサギは兄貴しかいないもん」
「分かってくれたか!」
「う、うん、だけど、父さんと母さんには、何て言うつもり」
 跳男は恐ろしい現実に身の毛もよだつ。
「分からないよ、だけどよお、逃げるわけにも行かないだろう。本当のことを言うしか」「そうだ、母さん、ウサギは好きだったよな、ニッコリ笑っておはよう、なんて言えばさ、きっと『まあ、かわいいうさぎさん、お・は・よ』なーんて案外ケロッと言うかもよ」
「そうかな、きっとそうだよな」
「うん、首に蝶ネクタイでもしてさ、不思議の国のアリスってところでどうかな」
「よし、分かった。その作戦でいこう。おい、首に蝶ネクタイをしてくれ」「うん」
 が、しかし、それはあまりにも安直な考えだった。
「跳男さーん、お食事よーん。猫ちゃんお部屋にいないんだけど、そこにいるの」
 跳男の部屋に近づいてくる足音。
「うん、か、母さん、実はさあ、ビックリしないで欲しいんだ」
「もーう、なに言ってるのよ。入るわよ」二人の鼓動は心臓が飛び出しそうなほど高鳴った。鶏子は強引にドアをこじ開けた。部屋には猫太とウサギがただ一匹。
「まあ、かわいいウサギさん、お・は・よ」
 ここまでは予想通り。がしかし、
「んーちゅっ」鶏子はウサギを抱き上げキスをする。猫太は緊張して動けなかった。
「どうしたのこのウサギ。跳男さんはどこにいるのかしら」
 跳男は勇気をふり絞って
「母さん、おはよう」
「・・・・・・?」
鶏子は腰を抜かして気絶する。


「人間にもどして!」の巻

「冗談じゃない、私の子がウサギになったなんて、人に知られたらいい笑いものだ。いいか鶏子、絶対に跳男を外に出すな。大学も休ませろ、誰にも見せるな!」
「そうよね、かわいそうだけど、きっといじめられるわね。それに私達まで変な目で見られるわ」
「それから、医者を探せ。跳男はとんでもない病気なのかもしれない」
 犬男と鶏子は『日本一医科大学付属病院』を訪れる。跳男は現代医学の力を信じて、元の体に戻れることを祈った。
「それでは次の患者さん、どうぞ」
看護婦の声に導かれ、犬男と鶏子が診察室に入っていく。待ちかまえる医者は日本一の名医と呼び声が高い江戸川鷺雄である。犬男の手には、黒い布をかけられた籠があった。
「いやあ、お久しぶりです。今日は、奥様がお悪いのですか」
「いや、違う・・・・えっへん」
「じゃあ、ご主人ですか。まっさかねえ。お二人とも猫太くんを連れてくるとき以外は、病院なんて無縁なのに、今日は猫太くんもいませんね。一体どうしたんですか」
「実はな、跳男がとんでもないことになってしまってな」
「えっ、あの元気な跳男くんがまたどうして。それで跳男くんはどこに」
「ここだ」犬男は籠にかけた黒い布をパッと取る。
「先生、お久しぶりです」
「が・げ・ご」
 鷺雄はのけぞり、腰を抜かして椅子からずり落ちる。紛れもなく跳男の声である。
「う、嘘でしょ、ちょっと・・・・」
 犬男はそんな鷺雄を睨み据え、その耳元に口を寄せ、
「いいか、うちの子供がこんなことになったことは誰にも言うな。誰かに喋ろうものなら、この頭に銃弾をぶち込むからな」
「いやん、いやん、言いません」
「あなた、何コソコソ話してんのよ。内緒話はよしこさんよ!」
「あっ、いや何でもない。そうそう、いい治療法があるだろうって聞いていたところなんじゃ」
「先生、どうにか、元に戻る手立てはありませんか。お願いします」鶏子は涙まじりの目で頼む。
「分かりました。とにかく今から血液検査とレントゲンを撮ってみましょう」
 数時間後、ついに鷺雄はお手上げ状態で二人の前に姿を現す。
「ダメです。いまだかつて前例を見ないこの事態に、私はなす術もありません。彼自身を病気と言っていいものかどうか。全く健全なウサギですので。ただ興味深いのはなぜ彼がしゃべることが出来るのか。声帯と脳が著しく発達しています。まるで人間並みに。地球上にウサギが何種類いるのかも、私は知りませんが、これは二十世紀最大の謎ですぞ。どうです、科学者達に彼の身柄を預けてみては」
 鷺雄の目が爛々と異様な光を放つ。そのあまりの不気味さに犬男は一瞬たじろぐが、我が子を実験台にしようという鷺雄の意図に感づくや怒りが爆発する。
「バカモノ!いいか鷺雄、このことを誰にも話してはならんぞ。さっきも言ったがもし誰かに言おうものなら、わしの部下に命じてお前を暗殺する。金をやるからと言えば、刑務所も覚悟でやるヤツがおるんじゃ」
「あーっ、す、すみません話しません話しません、誰にも言いません。ごめんなさい」
 サギ雄は土下座する。
 
 こうして家へ帰ると跳男は部屋に閉じこめられ、窓はカーテンで閉め切られ、外へ出ることも許されない囚人のような生活が始まる。
「ご飯よ、早く食べてね。あなたはウサギなんだからここから出ちゃだめよ」
 鶏子は疲れきった声で冷たく言い捨てると、皿を床において部屋を出る。その様子を遠くで見ていた猫太に、
「ここに来ちゃだめよ!」と言って鶏子はドアを閉める。
 そして、二人だけの寂しい食事が始まる。
「ねえ、兄貴さあ、いつまで閉じこめておくの」
「余計なこと言わないで、早く食べなさい。お母さんにだって分からないわよ。でもそのために今度中国に行くことにしたんだから。お父様に任せていれば大丈夫。きっと人間に戻れる日が来るから、心配しないで」


「中国旅行、謎の気孔医師」の巻

「私が気功師のペテンシです。中国四〇〇〇年の歴史で見ても、ヒジョーに珍しい、いや、類を見ない事件です。しかし、ご安心下さい。このペテンシが見れば必ずや、おぼっちゃまは元の人間に戻ります」
 犬男と鶏子が次に訪れたところはなんと、中国四川省。謎の、伝説の気功師ペテンシが跳男の治療にあたる。
「ふおーっ!」奇妙な声を上げてペテンシは気合いを入れると、跳男に気を浴びせる。跳男は吹っ飛び壁にぶつかる。
「いてててっ、何すんだよ!」
「黙れ妖怪!お前は何者じゃ!うさぎの怨霊か!今すぐ退散せよっ!」
「怨霊もへったくれもあるかっ!いきなり変な気をかけて俺を吹っ飛ばしやがって。このペテンシやろう!」
「黙れ!ウサギの分際で何を言うか!」
「なっ・・・・」この一言は跳男の心にグサリときた。そしてそればかりか、両親にまでも跳男に対する偏見の目を持たせることとなる。
「いいですか、こいつは妖怪だ、魔物だ、一匹のケダモノ、くだもの、ばけものだ!こんなの今まで見たことなーい!超っ、変なウサギ!」
 ペテンシは自分の気功治療が成功しないとみるや、急に跳男を攻撃し始める。
「わたしは人間を治癒する力はあるが、ケモノの治療はやってなーい!」
 ぺテンシのヒステリーのまえには犬男も鶏子も圧倒される。
「こいつに何を言っても無駄だ」
 犬男はため息をついて鶏子を連れ、中華街に行くことにした。

「ばかばかしい、何のために中国に来たのか。せめてうまいもんでも食わんとな」
 犬男は半分やけを起こしていた。
「鶏子、これから跳男をどうするか、考えんとな」
「ええ、でも考えれば考えるほど、怖くなるの。私、あの子がウサギの姿で話しかけてくるたび、ゾッとするのよ。頭では分かっていても、やっぱり気味が悪いの。テレビや街でウサギの絵やぬいぐるみを見ただけで目をふさいでしまう。生きたウサギを見ようものなら、気が狂いそうだわ」
 犬男は考え込んだまま遙か昔を思い出す。
「コスプレのたたりじゃ」
「????」
「新婚当初、わしはいつもおまえにバニーガールの格好をさせて頑張っていたじゃないか。このへんにウサギの耳なんかつけちゃったりして」
「いやだわお父さん、ふざけないでよ。・・・・でも本当にそうなのかしら。だったらもうコスプレなんてやめましょう!」
「いやいや、それはマイケル・ジョーダン、もっと難しい問題じゃ」
「そうよね。でもあの子はこれから、どうやって生きていくのかしら。笑いものにされるのは当然よね。そして私たちも、ウサギの親って、物珍しげに見られて一生生きていくんだわ」
「ウサギの親か」
「やめて。もうウサギから離れましょう」
「そうじゃなあ」
「キャーッ!!?!!」鶏子は奇声を上げて倒れる。
「んっ?!グゴベーッ!!?!!」そのあと犬男も倒れる。
 テーブルにはウサギの丸焼きが乗っかっていた。
「お客さん、どうかなさいましたか?」店員が片言の日本語で問いかける。
「うちの子を丸焼きにするなんて・・・・。この人でなし!鬼!悪魔!けだもの!冷血漢め!」
 店員は?という顔をして「ウサギの丸焼きはうちの名物料理です」
「名物料理だと、こいつがうちの跳男だったらどうするんじゃい!」
 犬男はハッと我に返る。「も、もういい。帰ろう鶏子」
 鶏子は意識朦朧と立ち上がり、「そうね」
「お客様、何か不手際でもございましたか」
「いや、ちょっと妻が体調が悪くてな。それより一つだけ言いたいことがある」
「何でございましょう」
「ウサギの丸焼きは中止しろ!」

 それからだった。跳男に対する犬男と鶏子の態度が冷たくなり始めたのは。ペテンシの言った、「人間ではなくウサギだ」という言葉が、棘となって二人の心に突き刺さる。もうこの世に人間の姿をした跳男はいないのか。しかし、ウサギは確かに跳男の心を持ち、二人の前にいる。鶏子は深いため息をつき、跳男を悲しく見た。


Comming Soon !
 あの感動のラストから、新たな青春ストーリーが始まる!!
 跳男は人間に戻れるのか!
 猫太と撫子の恋の行方は?
 そして、ブームが去ったあとのジャンプスの運命は?
キャラクター紹介
  宇佐跳男
  白鳥優子
  宇佐猫太
  大和撫子